最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2075号 判決 1950年9月22日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人田中秀次の上告趣意第一点について。
被告人に対する検事田中節次(論旨にいわゆる検察事務官)の第三回聴取書は、拷問による被告人の自白であるとの被告人の主張に対しては原審は特に証人山崎貞一及び証人浜口博の取調をして、右拷問の事実の有無について審理をしたのであるが、右審理の結果によって、右事実の存在は認められなかったものであり、その他、記録を精査するも右事実の存在を認むべき証跡はない。従って所論の事由によって、右聴取書の証拠力を否定することはできない。その余の論旨は、要するに、原審の採用した証拠の証拠価値を爭うものであるが、被告人と利害対立の関係に立つ者の証言なるが故に、それだけで証拠価値を否定すべきものではなく、所論は、畢竟原審の專権に属する証拠の判断、取捨を爭うことに帰するものであるから採用することはできない。
同第二点について。
原判決の確定するところによれば、被告人は農業の傍、吉川庄治郎に頼まれて、判示建物の管理を業としていたものであり、しかも、自己が管理占有していた右建物を不法にも自己の物とすることを決意し、判示のごとき偽造文書を利用して、右建物の所有者吉川庄治郎に対して、判示のごとく自己の所有権を主張し、所有権移転登記を求める旨の民事訴訟を提起し、よって、被告人は右建物を自己の物とする意思を表明したというのであつて、右の事実は、原判決挙示の証拠上認め得るところである。しからば、原判決が被告人の右所為に対し業務上横領罪の既遂をもつて、問擬したのは正当であつて、たとえ、被告人がその後右訴を取下げた事実がありとしても、それがために横領罪の未遂をもって論ずべきではない。論旨はすべて採るを得ない。
よって、刑訴施行法第二條、旧刑訴第四四六條に従い、主文のとおり判決する。
右は、全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)